Amphora Concert 2023

東西をつなぐ伝統のうた

~欧州から沖縄まで~

2023.12.16 銀座 王子ホール

第1部

ジョージア民謡【混声・女声】

ジョージアの伝統的な合唱は、地域ごとに異なる多様なポリフォニー(多声音楽)の形式が発達しています。元々は男たちが歌うものですが、今では女声や混声の合唱団でも楽しまれています。

 

Perad Shindi “チェリーの唇”

「チェリーの唇、黒い瞳よ。私のところに飛んで来て、私の暗い目を照らしておくれ。君は私の命の永遠の源だ」

 

Ts'ints'qaro “泉のほとりで”

「泉のほとりを通った時、美しい女に出会った。水差しを肩に担いでいた。ひとこと声をかけたのだけれど、怒って行ってしまったよ」

 

Okro Mchedelo “金細工師よ”

「金細工師よ、私に鋤を作っておくれ。その残りで、鍬を作っておくれ。その残りで、佁を作っておくれ。その残りで、ナイフを作っておくれ」

 

Es Ak'vani “この揺りかごは”

「幼な子の眠るこの揺りかごは、彫って作られたもの。この揺りかごは栗の木で。これははしばみで。これは桑で。そしてこれは水晶で」

 

Netavi Gogov Me Da Shen “娘よ、もしも私と”

「娘よ、もしも僕と君が。若者よ、もしも私とあなたが。畑を共に持ったならば。耕す鍬も持ったならば。森の傍の土地で」

 

Shen Khar Venakhi “あなたは葡萄畑”

「あなたは花の咲いたばかりの葡萄畑。若く、美しく、エデンの園の香り高いポプラの苗木だ。あなたはまさに、明るく輝く太陽だ」

ジョージア民謡【男声】

Alilo “イメレティのクリスマスソング”

「神が、我々にクリスマスを賜ったのだ。12月の25日のこと。キリストはベツレヘムでお生まれになったのだ」

イメレティ地方はジョージア中部、首都トビリシのある地域。

 

Sadghegrdzelo “乾杯”

サジェグルヅェロは乾杯の発声の言葉。ジョージアでも特に技巧的なポリフォニーを持つ西部グリア地方の歌。5度プラス5度のハーモニーで始まり、最後は2度の積み重ねからユニゾンで終わる。

 

Ocheshkhvei “収穫の歌”

「両手には豊かな収穫、蔵はワインでいっぱい、そして何より、敵のいない嬉しさよ」

トルコやロシアと長く戦い続けた歴史もしのばれる歌。祭りでは歌にあわせて輪舞が加速していく。

ルネサンスのポリフォニー

音楽史上の盛期ルネサンス時代(西暦 1500 年前後)は、西欧で声楽によるポリフォニーが最も発展した時期です。当時日本でもイエズス会のセミナリヨで音楽教育が行われ、日本人が初めて触れた西洋音楽ともなりました。今回は、当時の最も有名な作曲家、ジョスカン・デ・プレ(1450頃 ~1521)の作品を3曲お届けします。複数の旋律が絡み合う様々な技法をお楽しみください。

 

Allégez Moy “私を慰めておくれ”

「私を慰めておくれ。あなたの美しさで、私のすべての痛みを癒しておくれ」

古いフランス語による世俗曲(シャンソン)で、六つの声部のそれぞれ短い旋律が、次々に現れては消えて行く。

 

Mille Regretz “千々の悲しみ”

「千々の悲しみ。あなたを残し、別れるゆえに、千々の悲しみに暮れてゆく」 

四声部のシャンソン。スペイン皇帝にいたく愛され、「皇帝の歌」の名でヨーロッパ中で演奏された。天正遣欧使節団が帰国後、関白秀吉に披露した曲ともされる。

 

In Te Domine Speravi “主よ、あなたを信じます”

「主よ、あなたを信じます。永遠に憐れみをくださることを。悲しく暗い地獄にあっても、それを打ち破ってくださることを」 

ラテン語とイタリア語による四声部のフロットーラ。



第2部

ブルガリア民謡 by Unica Jingle

ブルガリアでは伝統的な民謡をもとにした高度なポリフォニーのスタイルが確立し、その独特の唱法は、ブルガリアン・ヴォイスとして世界に知られています。ブルガリアで本格的レッスンを受けてきたアンフォラ内のユニット、Unica Jingle の演奏でお楽しみいただきます。

 

Pilentse Pee “小鳥は歌い、語る”

「深い森の中、小鳥が歌う。美しい恋人がいれば、苦しい時も嘆くことはないと」 

鳥のさえずりを模した鋭く甲高い声と、五声部による濃密なハーモニーが聴き所。

 

Todoro Le Izgoro “トドラは美しい娘”

「トドラ、好きな男はいないの? 私の彼があなたに惚れて、困ってるのよ!」若い娘のおしゃべりを、楽しいメロディーのバリエーションに乗せて。

 

Karai Mome “さあ行きましょう、娘さん”

トラキア地方の農民の歌。羊飼いに逢いに行きたがる草刈りの娘に、こう呼びかけます。

「一生けんめい働きましょう。早く麦を刈って。娘さん、働きに行きましょう...」

 

 

Altun Maro “美しいマリーよ”

「美しいマリーよ、村の娘たちを、きれいな娘たちを、みな集めておくれ。僕の仲間たちに会わせたいから」

Maroは Marieの呼びかけ形。今でいう合コンの誘いの歌。途中、息子の花嫁候補に興味津々の、母親たちのおしゃべりが入る。

 

沖縄民謡

沖縄は、東北と並ぶ民謡の宝庫。宮古島出身の作曲家で琉球民謡の研究家でもあった金井喜久子(1906~1986)によれば、1500年前後に首里の王府が編纂した歌謡集には、1553もの歌が収められていました。この金井氏が各島で直接採譜・編曲したものを参考に、古い民謡の魅力を生かしたアカペラコーラスに挑みます。

 

安里屋ユンタ

八重山地方・竹富島の民謡。農作業や土木作業の際、男女が掛け合いで歌った労働歌。ユンタは「結い歌」または「詠み歌」の転訛とされ、地元では古くから伝わる歌を指す。

「安里屋(安里という家)に、クヤマという娘が、あのように美しく生まれて。目差主(村役人)が妾に乞うたら、あたる親(その上役)も望みようた。目差主は私は嫌、(どうせ行くなら)あたる親のところに行きます」

 

ばんがむり~宮古島の子守唄~

「吾が守り(私がお守して)太わさば(大きくしてあげよう)。姉が漕ぎ(姉さんがゆすって)丈わさば(高くしてあげよう)。友の花(友の中でも花のように優れて)生まりゃしゅうてぃ(生まれていて)。

吾友の華(仲間達の花のように美しく)生まりゃしゅうてぃ。島うすい照りゃ上がり(島中で名を上げ、尊敬されるような)、国やうすい照りゃ上がり(国中でも尊敬されるような、立派な人におなり)」

 

ましゅんく節

沖縄本島北西の伊江島の民謡。「ましゅんく」は土鍋のこと。「なび(鍋)」は鉄鍋のことだが女性の名前にも使われる。土鍋や鉄鍋に例えて娘たちの品定めをする遊び歌。

「ましゅんくとなびと、見比べてみれば。ましゅんくや薄さ、なびや美さ。にんぐるにんぐる(恋人達がねんごろに)揃って、女童話しの面白さよ」

 

クロアチア民謡

アドリア海に面したクロアチアのダルマチア地方では、klapa(クラパ)と呼ばれる伝統的な四部形式の合唱が盛んで、古い民謡から現代の流行歌まで何でも四部合唱にしてしまうそうです。歴史的にイタリアと縁が深い地域で、ラテン的な明るい雰囲気の曲もあります。

 

Lepi Juro “聖ジョージのイブに”

「麗しきジョージ。聖ジョージの日の前夜、その夕暮れに、右手で火を灯します。左手で花輪を編みます。聖ジョージの日の前夜、その夕暮れに」

 

U Poju Se Mala “悲しい花嫁さん”

「オレンジの木が少し揺れている。風のせいではない。太陽のせいでもない。男やもめに嫁がされる娘さんの、大きな悲しみのせいだよ」

 

Cetina “ツェティナ川よ”

「ディナルアルプスの清く冷たい水が野を潤す。ツェティナ川よ。川に向かって乙女は美しい歌を歌う。ツェティナ川よ、どうか川を越えて、愛しい人を私の元に来させて下さい。そしてキスをさせて下さい」

 

Serenada Mandini “マンディーニのセレナーデ”

「幾度、太陽が照らしただろう、このカウンターの中を。さあその時が来た、また太陽がやって来た。バイオリンとギターを鳴らせ。マンディーニよ、私に語りかけておくれ」

 

O, Jablane “丈高き林檎の木よ”

「丈高き林檎の木よ。あなたは我等の父。全てのイェルサ人の誇り。いつか彼女が町に来たら、そして林檎が熟したら、木の下で、彼女にその実を渡そう」(イェルサはアドリア海のフヴァル島北端の町)